【おすすめ洋書】「サラエボのチェリスト」「アルジャーノンに花束を」

2022年7月29日本・映画・ドラマレビュー

「人は1つの人生しか経験できないけど、本は何人もの人生を見せてくれる」

と学生の頃父がよく言ってたのを覚えています。

「おとうと」

が、読解力のない私が読むのは専ら流行りの小説家の推理小説やドラマ化された単行本。

でもそんな中、たまに読み返して目頭が熱くなる本があります。

それが、高校の夏休みの課題で読んだ幸田文著「おとうと」

あらすじ

家族として機能していない父と母の間で暮らす姉と弟。弟にとっては姉が母代わりであった。ある日、母が弟の傘を用意していなかった為に弟は傘無しで土砂降りの中を駆けて行くことになる。姉は弟が可哀想だと自分の傘を貸そうとするが、女性ものは恥ずかしいと断る。ずぶ濡れで前を行く弟が急に姉を振り返り、姉へ向けてふざけた顔をする。”自分は大丈夫だから心配するな”という意味なのだろうと姉は考える。しかし後に弟にその意味を尋ねると、弟は”姉さんが不憫だったから”と答える。大体こんな内容だったかなと記憶していますが違ったらごめんなさい。小説は後半悲しみの渦へと読者を引き込んでいきます。

感想

かなり序盤のこの件(くだり)が、弟と姉の関係の全てを表しているように思えました。お互いが相手をちょっと’可哀想’だと感じてしまう。姉と弟は確かにこういう関係性があると思います。

後半でも姉と弟の微妙な関係は上手く描かれ、きっと姉弟が実際に居る人しかわからない感覚だ思います。姉妹、兄妹、兄弟、の関係は他の人にはわからないまた別の形の感情が存在するのでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、今年に入ってから頑張って英語で読み切ったおすすめの小説を2冊ご紹介したいと思います。

”The Cellist of Sarajevo”(サラエボのチェリスト)Steven Galloway 著

まず、私がカナダのAdult education centreの授業で読まされた本です。

Grade12(高校3年)レベル。

サラエボのチェリストは戦場で実際に存在した人物。彼はリスクを恐れずに人のため、自分のために戦場でチェロを弾き続けた。
戦争の中において、自己犠牲や生きる目的をテーマに書かれています。
チェリストは基本象徴的な存在で、彼を取り巻く3人の主人公を中心に、彼らの人間としての尊厳、悩み、心の動きが描かれています。

あらすじ

3人の主人公の一人、本当の名前を捨てスナイパーとして戦う生き方を選んだArrowは、これまで国のためにたくさんの敵を殺してきた。それが当然の義務であったから。しかし、チェリストの存在によって自分の人生を考え始める。そんな時、罪の無い男を撃てと命じられる。

もう一人の主人公、Draganは家族を安全な場所に送り一人国に残った。犠牲者が絶えない「スナイパー通り」と呼ばれた道では人々が次々と撃たれ、恐怖の道として知られていた。しかし生活をする上では人々は道を横切ることを余儀なくされる。スナイパー通りの前で佇む男、Dragan。これは自分の愛した町か。こんな残虐な光景しか目にすることができないのか。心の変化は徐々にDraganに希望を見せ始める。

そして最後の主人公、家族のため危険な水汲みに出かけるKenanは、不親切な隣人の分の水汲みを頼まれる。敵の襲撃はそこでも行われ、Kenanのそばでも起きた。けが人を助けることができず、恐怖で逃げるように家に急ぐKenan。隣人の水が重い。邪魔だ。あの嫌みな隣人に水を持ち帰る必要はあるのか?これまで一度だって自分たち家族を助けてくれた試しはない。葛藤は自分の心に変化をもたらす。Kenanが辿り着いた答えは?

感想

日本のこの平和な時代、平和な環境でぬくぬくと生きているとまるで違う世界のことのようですが、実際に戦場で戦った時代もあったし、今でも世界ではさまざまな争いが続いていて、信じられないほど残虐なことが行われている。どうしても、戦争=非現実と思ってしまうけど、そこにいる人は一人一人が普通に考えて、普通に生きている。「この世界の片隅に」というアニメ映画を観た時にも、それは強く感じました。

悲惨な環境の中でも人として、人らしく自分らしく生きる意味を探す人々。

3人の主人公の中でも、Kenenが想像しやすく、葛藤が芽生える彼の、心の動きなど痛いほど考えさせられました。

 

英語の勉強の面から言うと、わからない単語はちょこちょこ出てきましたが、ストーリーがわかりやすいので飽きずに読み切れました。

”Flowers for Algernon”(アルジャーノンに花束を)Daniel Keyes 著

有名な小説なのでご存知の方も多いと思いますが、英語版もとても良いです。

あらすじ

人よりIQが低く、ずっと頭が良くなりたかった、そんな主人公が手術によってIQを上げるストーリー。

手術は成功し、彼の頭脳は驚く程発達し、彼が望んだように賢さを手に入れる。しかし、彼が賢くなった事実によって引き起こされる周り人々の変化に気づく。それに影響される自分自身。幸せは手に入ったはずだった。なのに、何故。

賢くなれば自分も周りも幸せになれると信じていたのに、壊れて行く幸せ。わからなかったことが、わかるようになった。見えないものも、見えるようになった。それが、幸せなことだと信じていた。

そしてこれからの彼の人生は・・?

感想

人は賢くなりたいと望む。子どもは早く大人になりたいと願う。ただ、それは決して手術で手に入れるものではない。急いで無理して大きくなろうとしなくても、子どもはゆっくりと、でもいつしか成長する。そして否が応でもやがて老いて行く。老いを意識し始めた頃、知らず知らずのうちに人は死を意識し、そして誰もが同じ道を辿るしかない。そんな人生の刹那もこの本に描かれているのではないかと思います。

幼い英語の文章から始まった時、一瞬本のスペル間違いかなと思ったけど、それこそが知能を示す筆者の意図でした。知能が高くなるにつれて文体が変わって行く様も楽しく引き込まれます。

最後に

そんなわけで、今日はおすすめの洋書2作品

”The Cellist of Sarajevo”(サラエボのチェリスト)Steven Galloway 著

”Flowers for Algernon”(アルジャーノンに花束を)Daniel Keyes 著

をご紹介しました。

サラエボの方は、カナダの高校英語カリキュラムを取った時に授業で読まされました。

もちろん、本を読んだ後に色々なディスカッションやロールプレイもしましたよ。(ムズカシかった・・)

機会があれば是非読んでみてください。おすすめです。